第4弾の記事になります。
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前回の記事では、任意売却の買主は売主だけでなく仲介業者との交渉も必要になると書きました。
さて、ここからはこの取引の最大の山場に入ります。
占有者Mの登場です。
今回の記事ではAさんとMとの実際のやりとりを中心に書いていきます。
- 任意売却の場合、明け渡し交渉はどうしたらいいの?
- 任意売却の取引で大切なこととは?
任意売却の明け渡しには根気が必要【なぜなら売主は無気力だから】
隣人AさんとMとの関係は相変わらず。
Aさんの家の2階はすべて鍵をかけられMに占拠されたまま。
普通の感覚では、ちょっと理解しがたい関係です。
任意売却では売買代金に、所有者の『引っ越し代』も含まれます。
契約が速やかに進むように、また、引き渡しが滞りなく完了するためにこの『引っ越し代』をこちらは支払うわけです。
だいたい相場は20万円ほどですが、このままでは占有者Mにも支払わなければいけません。
任意売却は明け渡しに関する法的な強制力がない
競売の場合は、強制執行の手続きをすれば裁判所の執行官によって容赦なく追い出されてしまいます。
つまり、昔のように『引っ越し代』と称して立ち退き料を請求されるようなことはありません。
けれど任意売却の場合は、なんの強制力もないのでお金を払って解決するしか方法がないのです。
Aさんには占有者Mを追い出すことができない
占有者Mは相変わらずの暮らしっぷりで、Aさんは私と顔を会わすたびに
「不動産屋にも、もっとMに厳しく出て行けって伝えろとか、荷物を外に放り投げちゃえばいいとか言われてるんだよ。
おれも早く、次に住むとこ決めなきゃなんないんだけど、金がないから決めたくても決められないし。
あいつ、置いてくわけにいかないじゃん?」
なんて、本当にお人よしの極みのようなことばかり言う有様。
本来ならば任意売却の話をAさんと進める前に、AさんがMを追い出してくれることがベストなのですがまったく埒が明きません。
任意売却の明け渡しのよくあるトラブル
我が家のように、無知と無力の住人という以外に、任意売却の明け渡しにはどんなトラブルがあるのでしょうか。
少し例を書いてみます。
- 引っ越し費用に債権者が同意しない
- 仲介業者に任意売却の知識がない
- 債務者と占有者(居住者)が違う
- 連帯保証人がいる場合
引っ越し費用に債権者が納得しない
これは我が家の例でいうと、Aさんは引っ越し代20万円ででていくと言っているのに、保証会社KがNGを出している場合です。
売買価格が低いんだから、引っ越し代さえも債権回収に回させろということですね。
仲介業者に任意売却の知識がない
任意売却の場合は一般売却と違う専門の知識が必要になります。
もしも、おひょいさんにまったく任意売却の知識がなかったら?!
競売開札までの短い間に
- 保証会社Kと交渉
- 我が家へ金額の説得
- 無気力な二人の世話
- 契約準備
- 住宅ローン関係の手伝い
すべてを同時にこなすのは無理だったかもしれません。
債務者と占有者(居住者)が違う場合
離婚して元妻がそのまま住んでいるけれど、債務者は別居している元夫というケース。
元夫と交渉がうまくいっても元妻が出ていかない場合などトラブルになる事があります。
その際は別れた元妻にあって説得したり、元妻の引っ越し代金を工面するなどが必要。
連帯保証人がいる場合
これも離婚したケースが多いです。
名義が共有になっていたり住宅ローンが連帯保証人になっていたりするケース。
任意売却の明け渡しに難航するも、買付証明書を出して勝負に出る
保証会社との話し合いはだいぶ進んで、お互いに同意できる金額は決まってきました。
ともかく時間がないので、保証会社Kと、AさんとMらすべての登場人物の反応を探るためにも買付証明書を出すことにしました。
保証会社との交渉から導き出した金額に、とりあえず引越し代として20万円上乗せした金額です。
保証会社は嫌なそぶりを見せつつ、まあ仕方がないとOKを出してくれました。
買付証明書を出してMのアクションを待つ
特にこちらから
「Aさんのお宅を買いますよ。」とか
「実は買いたいんですけど。」とか
こちらの気持ちを伝えたことはありませんでした。
そしておひょいさんも、買い付け証明書をAさんに渡すときに、『誰が書いた』という話は敢えてしていないようでした。
ただ、もちろん買付証明書には我が家の住所と主人の署名がありますので、きちんと最後まで読めば我が家が書いたものだとはわかるはずです。
Aさんはうちが買い付けを出したなんてことを、これっぽっちも気づいてないようでした。
任意売却の当事者Aさんはまるで状況を把握できず
今までと同じように、外で会えば
「いや~
うちの家、買ってくれるって人が出てよ~
競売にならずに済むみたいなんだよね~
だから早いとこ次住む所見つけて、ここをいつごろ出てけるか見当つけなきゃいけないんだけど。
やっぱ、金がね~
あいつもいるしさ~」
なんて、今の状況を詳しく話してくれるのです。
買い付けを出す前に
「Aさん、気づかなかったりしてね。」
なんて、話もあったんです。
でも
「まさかね~
そこはいくら何でも気づくでしょうよ。
そしたらAさんはもちろん、Mにも伝わるだろうから、悪意の占有者なら何かアクション仕掛けてくるかもね。」
なんて言っていたんです。
たぬき芝居を続けるおひょいさんと私たち
おひょいさんとも相談し、
「Mの思惑がはっきりわかるまでは、せっかく気が付いてないんだからそのまま黙っておきましょう。」
「もしも買付証明書を見直して気づいてしまったら、そのときは『え~!知らなかったんですか~?!』とでも言えばいいでしょう。」
ということになりました。
Aさんには高度な駆け引きはできない
相変わらず、
「買ってくれるって人が、引越し代出してくれるって言うんだけど決済のときにくれるみたいでさ~
そのとき金もらっても困っちゃうよね~
今のうちに出てけっていうならさ、今、金が無いとね~」
なんて、私に言ってくる始末。
これは、買い付けを出したのがうちだとわかってて『敢えて』の発言なのか?と何度もいぶかしみました。
なんというか・・・
Aさんはほんとに、子供のように素直で、人懐っこくて。
あまりAさんのことを知らずに失礼な話ですけど、そんなに高度な駆け引きができるとは思えないのです。
毎日仕事へも行って、唯一の楽しみと言ったら近所の小料理屋へ行くか、玄関先に出てきて隣近所とおしゃべりするくらい。
もしも、Aさんに交渉力があったなら、少々の税金を滞納したからと言って、こんなことにはなるはずがないのです。
おひょいさんもその点は同じ考えのようで、もうこの際Aさんはノーマークで行きましょうという考えに至りました。
任意売却の明け渡し大本命、占有者Mの正体を探る
問題は占有者Mです。
実際のところ、Aさんは新しい入居先を決めるための費用(敷金礼金など)が本当に工面できない様子。
もちろんMにもお金が無く、今のところまったく出て行く気も、当てもないようでした。
Aさんに寄生しているだけのただの輩か、それともAさんの家が競売にかかると知りお金を少しでも多く得るために居座る腹なのか・・・。
そこで、私は今まで以上にカーテンの隙間からMの動きをよく観察しました。
占有者Mを観察する日々
Mに関しては、彼のいかつい風貌からか
「どこかの構成員らしい」とか
「前はどこどこの誰さんのとこに寄生してたらしい」とか
「生活保護を不正に受給しているらしい」とか
近所のうわさ好きの人たちに、散々いろいろなことを言われていました。
けれど毎日毎日判子で押したような生活を送っているMは、私の中でただの無気力なプー太郎、という印象に変わっていきました。
占有者Mの本当の正体
毎日毎日、ボロボロのキャデラックのエンジンをかけて。
ボンネットを開けてペットボトルに入れた水のようなものを持ってなにやらゴソゴソして。
大きい図体をちっちゃくして。
我が家の敷地に入ってそそくさと助手席から乗り込んで。
ボロボロボローとすごい爆音とともに歩いて2分のセブンイレブンへ行く。
数分後にお弁当を持ってボロボロボローと、大爆音で帰ってくるという毎日。
Mから
「立ち退き料20万円なんてふざけてんのか~」とか
「あと○○万円くらいくれなきゃ、出て行けるわけ無いだろ~」とか
そんな映画のような脅しをされることも、怖い目にあうこともありませんでした。
悪意の占有者、はたまた、Aさんを操っている黒幕というのではなく。
もともと怠け者の上に、Aさんという異常なほどのお人よしの世話になって、ますます働く気も無くなった無気力な人間との結論に至りました。
任意売却で明け渡しに苦戦、悪意はないけれど、出ていく気力もお金もない
こうして、AさんやMが引越し代の交渉で嫌がらせや交換条件、難題を言ってくる可能性は減ったわけです。
けれど、本当にお金が無い彼らにお金を支払わない限り、行動力がまるで無いふたりを出ていかせることは不可能なのです。
しかも、Aさんが私に言うには
「ま~、一軒家はちょっと広すぎたからな~
次は狭いとこでいいんだけども狭すぎてもね~
ギャップがね!ギャップが!
周りに何も無いようなとこじゃさ~
寂しいじゃん?」
なんて、相も変わらず今の自分の状況をまったく理解していない様子。
引っ越し代、プラス30万円で決着
無気力Mは(もはや占有者Mではない)Mで、
Aさんについてきます~
どうにでもどうぞ~
はははは~
うふふふふ~
な、相変わらずの見事なお花畑っぷり!
引っ越した後、AさんがMの面倒を見るのか、それとも、ここでMと決別してバラバラに暮らすのか。
いつまでたっても、この二人には決断することができなそうなので
決済日(引渡し日)の前に引越ししてもらうために、手付金として50万円を先にAさんに払うことにしました。
50万円をどう使うかはAさんにお任せします。
おひょいさんが言うように、Mに出て行ってくれと荷物を放り出して50万円そっくりAさんがもらってもいいし。
50万円のうちいくらかをMに渡して出て行ってもらってもいいし。
そして、必ず指定の期日までに出て行くことを『約定書』で取り決めしてもらいました。
引っ越しスケジュールは賃貸不動産屋と連携しておひょいさんが徹底管理
おひょいさんが賃貸不動産屋さんをAに紹介し、スケジュール通りにこなせる様、逐一Aさんから報告をしてもらうことにしました。
また、連絡の抜けがないよう賃貸不動産屋ともタッグを組みます。
お金がかかりそうな不用品はもちろん今の家に置きっぱなしでもいいから、とにかく体だけ期日まで出ていくように、という約束です。
任意売却の明け渡しから決済までスムーズに取引するために必要なこと
競売の開札期日までもう時間がないので、かなりのタイトスケジュールです。
不動産の売買に必要な公的な書類をそれぞれ用意して、あわただしく日にちが過ぎていきます。
なかなかAさんと我が家の予定が会わず、契約は持ち回りで行うことになりました。
まずは買主である我が家が、Sハウジングの読み合わせの後、署名捺印します。
その契約書をもって、Aさんの職場の近くのファミレスで読み合わせと、署名捺印という方法をとりました。
任意売却は約定書が大切
とにかく時間単位で状況がコロコロ変わります。
そのたびにきちんと関係者間で交渉し、約定書をとってうえで解決させていくことが大切です。
特に今回のように、一度も世の中に出ていない売り出し情報の場合は注意が必要です。
裁判所の資料以外は0から物件の調査をしなくてはならず、状況が一転二転することがあります。
その時の取引では、私道の持ち分がなかったり、未登記の建物があったりとトラブルが多かったです。
任意売却は予定の変更にすぐ対応できることが大切
このように、一般売却よりも何かと問題点が多い任意売却の場合、すぐに問題解決できる対応力と判断力が必要です。
特に、開札が始まってしまうと元も子もないので、スピード感は大切です。
また任意売却の場合は白紙解約など最後に状況がひっくり返ることがあるので、それに対するリスク管理も必要です。
任意売却は買主も知識と行動力が必要
今回のおひょいさんの立ち回りを見てもわかる通り、仲介さんは任意売却の場合とても高度な交渉と物理的な行動力が必要になります。
買主は仲介さんの動きと並行して、銀行とのやりとりなど自分でできることがあれば進んで引き受けましょう。
そのため、買主自身も不動産取引についてある程度の知識が必要です。
さて、お気づきの方もいるかもしれません。
当のAさんはというと、実は契約書の押印を済ませたこの時点でもなお、私たちが買主だと気づいていません。
あまりにも頓珍漢なAさんに対し、少し怖くなってしまったわたし。
不安な夜を過ごしました。
だってみんなでAさんを騙していたんですから。
・・・が、もちろんそんな不安は的中するはずもなく、この後壮大なネタ晴らしを迎えることとなります。
To be continued
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