任意売却で物件を購入したいけれど、よくわからなくてちょっと心配。
欲しい物件が任意売却って聞いたけれど、それって大丈夫なの?
任意売却による購入が不安だと感じている人が多いようです。
私は結婚を機に退職するまで、競売や任意売却を専門に扱う不動産買取業者で営業をしていました。
仕事ではもちろんですが、プライベートでも2回任意売却での購入経験があります。
プライベートでの詳しい取引の内容についてはこちらの記事を是非ご覧ください。
物語のようにサラッと読めるので、取引全体の流れがザックリ把握できると思います。
今日の記事では、任意売却についてもっと詳しく解説します。
不動産を購入したことがない人でも理解しやすいよう、わかりやすく簡単な言葉で説明しますので、是非最後までご覧ください。
任意売却で購入するってどういうこと?
まずは任意売却とはなんなのかを説明しましょう。
ややこしい話になりますが、やさしく解説します。
少々長くなりますが、どうぞお付き合いください。
住宅ローンを借りたら抵当権を設定される
住宅を購入する人の多くは、金融機関からお金を借りて購入します。
その際『毎月〇日に〇×〇×円ずつ返済しますよ』と金融機関と支払額などを約束してお金を借ります。
けれどこのままではもしもローンを組んだ人が支払いすることができなくなったら、金融機関が損をしてしまいます。
そこで多くの金融機関は『保証会社』に保証人になってもらうことを条件として要求します。
さらに支払い不能になったときに備えて、金融機関は建物と土地に担保権をつけます。
つまり、お金が払えなくなったら家と土地を貰いますよ、ということを公的に約束するわけです。
返済できなくなると差し押さえをされる
さて、もしも本当に住宅ローンが払えなくなってしまったらどうなるのでしょう。
この場合は、債務者である家の所有者が勝手に家を売りに出したりできないよう、抵当権を設定している金融機関が裁判所に申し立てをします。
このように、裁判所によってその経緯は登記され、謄本にも記載されることになります。
上のケースは市税を滞納して差し押さえになったケースです。
『参加差し押さえ』とは、税金の滞納が複数あった場合に、通常の差し押さえに重ねて追加することを意味しています。
返済できなければ保証会社が弁済してくれる
ここでは税金でなく住宅ローンに焦点をあてて説明することにします。
まずは金融機関から督促状、催告状が順に届きます。
それでも返済が滞るようならば『期限の利益(※1)喪失通知書』が届き、分割ではなく一括返済しかできなくなってしまいます。
(※1)期限の利益
住宅ローンを組むときは金融機関から「分割で支払ってもいいですよ」という『期限の利益』を認めてもらっている状態です。
住宅ローンの支払いを滞納することによって、「支払いの約束を破ったから残りのローンを一括で支払ってください」と一括弁済を請求されます。
これを『期限の利益を失う』と言います。
先程の例のように、税金滞納によって差し押さえされてしまった場合も期限の利益を失うことになります。
期限の利益喪失通知書が届いた数日後には『代位弁済(※)通知書』というものが送られてきます。
これは保証会社によって「代位弁済がされましたよ」という事後報告の通知です。
(※2)代位弁済
金融機関に一括弁済を請求されてもほとんどの人は現金で残りのローンを支払うなんて無理です。
その際に弁済してくれるのが、先に登場した保証会社になります。
保証会社によって残金すべてを一括返済してもらうことを『代位弁済』と言います。
保証会社によって金融機関へ弁済されますが、自分の借金がなくなるわけではありません。
次は保証会社から遅延損害金などを含めたローンの一括請求をされることになります。
保証会社によって競売申し立てをされる
よく督促状などに『法的手続きを取らせていただきます』なんて文言があったりします。
この『法的手続き』とは競売の申し立てをすることを意味しています。
住宅ローンの滞納から実際に競売の申し立てをされるまでは4~9ヶ月くらいだと言われています。
この後、様々な手続きを経て入札が開始され、開札によってだれに売却するか決定します。
「競売開始決定通知書』が届いてから開札まで約半年ほどです。
任意売却で購入すると競売を阻止できる
ここまでだいぶ長い前置きになってしまいました。
ここからが本題です。
任意売却とは、ここまで書いたような経緯を踏んできた人が、競売を回避するための手段です。
簡単に言うと、競売になる前に家を購入してくれる人を探し、債権者に競売申し立てを取り下げてもらうということです。
つまり任意売却で購入するということは、競売開始決定が決まっている物件の競売を阻止することができるのです。
任意売却での購入は一般売買とどう違うのか
任意売却とは一般的な不動産取引と大きく異なります。
はっきり言って、任意売却は一般売買よりもややこしい問題が多いです。
けれど一つ一つの問題を関係者間で交渉しクリアしていくことによって、市場価格よりも少しだけ安い金額で購入できるというメリットもあります。
まずは一般的な不動産取引と何が違うのかを解説していきます。
任意売却と一般売買の違い
- 売主に売買代金を決める決定権がない
- 白紙解約になる事がある
- 瑕疵担保責任がつかない
- 引っ越し代が売買代金に含まれる
- 現状有姿が基本
- 手付金は仲介業者が預かる
- 関係者の人数
- 家を売っても借金が無くならない
- 専門的な知識
- 取引完了までの期限
1~6番目までは以下の記事で詳しく解説しています。
是非こちらをご覧ください。
今回の記事ではそれ以外の3つについて書いていきます。
任意売却での購入は関係者の人数が違う
任意売却の場合の基本的な登場人物は以下の通りです。
- 売主(債務者)
- 債権者
- 仲介業者
- 買主
これだけ見ると、一般売買よりも債権者1社が増えただけかと思うかもしれません。
けれど債権者が1社とは限りません。
- 住宅ローンのほかに税金の滞納がある
- 家を担保に複数の金融機関に借り入れがある
- 夫婦共有の家をそれぞれ違う金融機関で借りている
このように、売主が自宅を抵当に入れている借入先が多いと登場人物も増えていきます。
任意売却では家を売っても借金が無くならない
具体的にイメージしてみましょう。
Aさんは3000万円で自宅を購入する際、金融機関Bから2800万円の融資を受けました。
5年後、独立資金のため自宅を担保に入れ金融機関Cから300万円の事業ローン融資を受けることになりました。
さらに5年後、経営が難しくなり市県民税など100万円の税金を滞納してしまいました。
さらには住宅ローンや事業ローンも滞納してしまい、とうとう差し押さえられてしまいました。
Aさんは自宅を購入してから10年後に差し押さえられています。
仮に、10年たったこの時点で自宅の評価が2000万円だったとしましょう。
そして住宅ローンの残債が2000万円、事業ローンの残債が150万円だったとします。
2000万円で売ったとしても、借り入れや滞納分が無くならないのです。
通常、家を売りに出すときは主に次のようなパターンになります。
- 住宅ローンを完済してから売る
- 売却後、住宅ローンが残った分を現金で返済する
家を売ることができるのは、残債がない場合と、足りない分を現金で支払うことができる時のみです。
上の例のように家を売っても残債を消すことができない場合は
- 家が売れた代金を債権者に支払う
- 残ってしまった残債は、債権者と相談して今後も返済していく
こうして少しでも多くの借り入れを返済することが、任意売却による取引の目的になります。
任意売却では債権者全員の合意が必須
さて話はAさんに戻ります。
家の売買代金は2000万円ですが、現在の残債は2社と税金で2250万円です。
となると、金融機関B、金融機関C、地方公共団体それぞれに、物件が売れたらいくらずつ払いましょうか、という話し合いが必要になります。
このように、どの会社にいくら払うかを協議をして決めなくてはなりません。
そして債権者全員の同意がなければ売却するのことができないのです。
これが任意売却が難しいと言われる所以でもあります。
専門的な知識が必要
ここまで読んでいただいてわかるように、任意売却には難しい専門用語がたくさん出てきます。
そのほとんどは法律や金融に関する専門的な内容です。
一般的な不動産売買に関する専門用語は、なんとなく聞いたことがあってイメージしやすいものが多いです。
一方任意売却となると、競売や差し押さえなど漫画や映画の中の出来事のようで、漠然としたイメージしか沸かないという人も多いのではないでしょうか。
実は仲介業者も同様で、任意売却の知識や経験がないと難しい案件がいくつもあります。
任意売却には知識と同じくらい、債権者らとの人脈も必要になります。
確実に任意売却で物件を購入したければ、任意売却専門の業者にお願いしたほうが安心かもしれません。
任意売却で購入するには取引完了までの期間が決められている
これも一般的な売買との大きな違いです。
競売開始決定通知が届いて一旦競売の準備が始まると、開札期日(※)を超えてしまうと競売の取り下げができなくなります。
(※)開札期日
入札結果を公表する日のこと。
裁判所の中で公開開札が行われます。
おさらいになりますが、任意売却とは債権者に競売の申し立てを取り下げてもらう必要があります。
開始決定がされた後でも、売却が実施されて売却代金が納付されるまでは、いつでも申立てを取り下げることができます。
ただし、売却が実施されて、執行官による最高価買受申出人の決定がされた後の取下げについては、最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を必要とします。
したがって、申立人の意思のみで取り下げるためには、申立債権者は、開札期日の前日までに執行裁判所に対し取下書を提出する必要があります。
つまり簡単に言うと
- 落札者が決定される開札期日の前日までは債権者の一存で取り下げできる
- 落札者が代金を納付するまでも取り下げ自体は可能
- ただしその場合は、落札者と2番手の入札者の同意が必要
不動産の契約となると、契約書や重要事項説明書の準備、それぞれに署名押印など煩雑な手順があります。
現実的なことを考えると、開札期日前日に債権者が取り下げをOKして契約する、というのは考えられません。
このような理由から、通常は開札期日の2日前が任意売却の取引期限となっています。
任意売却を購入する流れは?
任意売却での購入には次の2パターンがあります。
- 普通に売りに出ている物件が任意売却案件だった
- 公開されていない任意売却案件
ひとつずつ見てみましょう。
普通に売りに出ている物件が任意売却案件だった
私がプライベートで1件目に購入した家がこのパターンでした。
不動産屋のチラシに載っている物件を気に入り問い合わせし、詳しく話を聞いたところ任意売却物件でした。
この場合はすでに販売図面もありますし、もちろん売買金額も決まっています。
つまり、債権者との金額的な交渉は終わっていて債権者の合意もとれている、ということになります。
また、売買代金の中に売主の引っ越し代金が含まれている場合もあります。
この場合、購入の流れとしては一般的な不動産売買と変わりません。
公開物件の中から任意売却を見つけた時の取引の様子はこちらからどうぞ。
公開されていない任意売却案件
これは私が2回目に取引したパターンです。
任意売却の多くは公開されずに関係者の周りを中心に水面下で行われるので、厳密にはいろいろなケースがあります。
ただ、売りに出ているパターンと大きく変わるのが、販売金額が決まっていないという点です。
そのため販売図面もありませんし、もちろん仲介業者間で不動産情報を共有しているシステム(レインズ)にも登録されていません。
我が家の時の取引を例にすると、仲介業者に間に入ってもらって債権者と売買代金の金額交渉をしました。
債権者は競売になる前に売り切りたいわけですから、市場よりもかなり安い値段で交渉することができるかもしれません。
未公開の物件であっても、売買代金が決まり債権者の合意が得られればあとは通常の不動産取引と同じような流れになります。
未公開物件の場合は、任意売却に慣れた仲介業者が間に入ってくれるのでお任せすれば大丈夫です。
以上、任意売却で物件を購入する流れについて詳しくまとめてみました。
そうそう出会えるチャンスはありませんが、もしも任意売却物件と出会えた暁には是非検討してみてください!